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2021.06.10

理学療法学科 教員ブログ(先生と患者さんの交換日記)

<第2回>天野真衣(助手)

理学療法学科の天野真衣です。
本日お話するのは、私が病院勤務の頃に出会った、ある患者さん(Iさん)との物語です。
Iさんには脳血管障害による運動麻痺に加えて高次脳機能障害(脳の機能で、言語、記憶、注意、情緒などの認知機能に起こる障害)があり、あらゆる症状がありました。
それらの改善のため、そして就労(職場復帰)に必要な準備を整えるため、ある日Iさんと相談し、病棟の職員とIさんとの交換日記が始まったのでした。
言語聴覚士、作業療法士、理学療法士、看護師、医師、医療ソーシャルワーカー、ご家族、その他多くの職員との関わりは、Iさんの治療への励みとなっていきました。
最初の1ページ、1行の文章を書くのに1時間以上もかかり、疲労困憊していたIさん。
それからの交換日記には、目に見えて日々の回復が記録されていきました。
それは文字の正確さや文章量としてだけでなく、入院生活中のIさんの気持ちの変化としても表れていたように思います。楽しそうに、時に辛そうに交換日記と日々の治療に向き合うIさんの姿を入院から退院に至るまで見届けることができました。
高次脳機能障害により表出が難しかったIさんでしたが、交換日記を通して病気による苦悩や不安、回復とともに取り戻してくるあらゆる身体的・認知的感覚、その喜び、貴重な気持ちの一面までをも自他共に共有していくこととなったのでした。

退院前日に日々みんなで作り上げた交換日記を手渡す時、
「私の宝物です。」と少し照れ臭そうに受け取るIさんの表情は今でも忘れられません。
人を支えるということは、一つに、その人の人生の一部にそっと寄り添う、そのような温かなものなのかもしれません。

写真:当時の写真(最終日の交換日記)
勤務地であった高知県の雪割桜(2月頃に咲く桜)と菜の花を添えて。