2021.03.25
令和2年度卒業式 学長式辞
学長の式辞を申し上げるに当たり、私が、理事長と学長を兼務いたしておりますので、理事長としてのご挨拶は、割愛させていただきますことをお許しください。
また、今回、新型コロナウィルスの拡大に伴う影響により、緊急事態宣言こそ解除されましたが、安全に配慮し、慎重に協議を行った結果、昨年と同様に式典にご来賓及びご家族の皆様にご参列いただけないことになりました。
このような形になりましたが、今日までご家族及び関係者の皆様からいただいた数々のご支援とご協力に対し、学園の理事長として、また学長として心から御礼申し上げます。
本日の学位授与式の様子は、ビデオカメラで撮影し、ライブ配信しています。今日、この席にご参加いただけなかったご家族や関係者の方からの要望に応え、このような形でご参加頂くこととしましたことをお許しください。
本日、教職員一同と共に、73名の皆さんに学位記の授与を行えましたことは、私どもにとって大きな喜びとするところです。
ご卒業される皆さんに改めてお祝い申し上げます。
どうか自信と誇りを胸にそれぞれの進路に向かっていただきたいと思います
宝塚医療大学は、平成23年に開学し、本日、7度目の卒業式を挙行するまだまだ若い大学であります。
この日を迎えられたのは、皆さんの在学中の様々な協力があってのたまものであり、これまでの努力に敬意を表します。
今日、皆さんにお話しをするのにあたって、新型コロナウィルスのことは、避けて通れないでしょう。
2020年の1月に、中国で発生した新型肺炎は、瞬く間に世界に蔓延しました。3月当初で、世界で1億1,500万人以上が感染し、250万人以上の方が亡くなりました。我が国でも43万人超が感染し、8,000人を超える方が亡くなっています。
2回にわたる緊急事態宣言が発出され、教育機関の休校措置、通学の自粛などが行われ、皆さんの学生生活にも大きな影響を及ぼしました。
ようやくワクチンの接種が始まりましたが、まだまだ油断が出来ない状況が続いております。
大学においてもオンライン授業の導入や、臨床実習の変更、3つの密を避けるための方策など様々な取組を行いました。
皆さんの最終学年は、入学時には想像もできなかったものであったと思います。
大学に行くことができない、友達と会うことができない、アルバイトも制限される、こうした状況を乗り越え、卒業を迎える皆さんのご苦労に思いを寄せると共に、この晴れの日を迎えられたことに、学生の皆さん、教職員、関係各位に重ねて御礼申し上げます。
一方で、新型コロナウィルスの感染拡大に当たって、医療従事者の貢献や献身的な勤務状況は数多く報道されました。また、こうした医療従事者に感謝を示す様々な活動も行われました。
収束の見込みが立たないなかで働く医療従事者の方を支えたのは、自らの職業への誇りと責任感であったであろうと思います。
人が、自分以外の人のために、たとえそれが親兄弟であっても、自分の幸せの何分の一かでも犠牲にする、というのは、とても大変なことです。ましてやそれが見ず知らずの他人である場合は言うまでもありません。
しかし、医療従事者は、その日初めて顔を合わす他人であっても、患者やその家族であれば、最大限の努力を注がなければなりません。
この覚悟とそれを実践する能力こそ、医療従事者が国民の信頼を得、感謝される理由でしょう。今、皆さんは基礎的な学びを終え、そのスタートラインに立っています。
さて、4年前の入学式で、私は、皆さんに夏目漱石の「のんきと見える人々も、心の底をたたいてみると、どこか悲しい音がする。」という言葉をご紹介し、患者さんの心の底をたたくような深い洞察力をもった医療人になってほしいと、お話ししました。
皆さんのご卒業に当たって、もう一つ、漱石の言葉を贈りたいと思います。「倫敦(ろんどん)消息」という短編にある言葉です。
「前後を切断せよ、みだりに過去に執着するなかれ、いたずらに将来に望(のぞみ)を属(しょく)するなかれ、満身の力をこめて現在に働け」というものです。
文中で、漱石はこれを己の主義であると述べています。
必要以上に過去にとらわれず、未来に過大に期待せず、今現在出来ることを精一杯行え、という意味でしょう。
コロナウィルスの感染拡大は私たちにこれまで経験したことがない社会をもたらしました。この経験から学ぶことは多いでしょう。一方で反省するべき点、悔やむべきこともたくさんあります。しかし反省や後悔にとらわれているだけでは、ましてや誰かを批判するだけでは前には進めません。
また、医療を科学的な視点から学んだ者として未来を安易に楽観視することの危険も十分理解できるはずです。
過去への反省も、未来への希望もバランス良く持ちながら、なによりも今自分が出来ることに集中して精一杯の努力をする、このような気持ち、態度で社会に向かって頂きたいと期待します。
医療の道は、先ほども述べたように、皆さんが満身の力をこめて働くにふさわしい場であることは間違いありません。
今日、旅立ちの日を迎える皆さんには、本学で学ばれた専門知識と共に、根拠に基づき科学的に考える能力、そして何より医療人としての良心と使命感が宿っていると信じています。
これからの社会では、いま以上の問題や波乱が起こるかもしれません。皆さんがそれらに立ち向かうとき、本学での学びが武器となることを願っております。
皆さんは、本日、宝塚医療大学を巣立ち、それぞれの道を歩まれます。
しかし、皆さんが医療人として、社会人としての使命を全うしておられれば、きっと、再びいずれかの道で交わることがあるでしょう。
そのときには胸を張って、宝塚医療大学の卒業生であることを誇れることを期待しています。
私たち大学関係者も、皆さんの母校として、誇れる大学であるよう、今後も一層の努力を続けることをお約束します。
本日、教職員に見送られて本学を卒業する皆さんの、今後のご活躍を祈念して、学長の式辞といたします。
本日は、誠におめでとうございます。
令和3(2021)年3月19日
宝塚医療大学 学長 岸野 雅方